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雲 龍 瀑

2004年(平成16年) 2月7日(土)

 雲竜瀑 にはずっと憧れていた。
 昔から,この時期になると,地元警察が 山岳救助訓練 の一環として氷壁登りを行い,その様子が必ず新聞に載っていた。 雲竜渓谷 というものがあり, 雲竜瀑 というものがあることは知っていたし,厳寒期には 雲竜瀑 が氷結し 氷瀑 になるということも知っていた。
 しかし,そこは スペシャリスト の世界であり,とても自分など近づける場所ではないと諦めていた。山登りを再開し, 冬でも多少は出かけるようになると,もしかして自分でも行けるかも知れないと思うようになった。 情報を集め,いよいよ今日,実行した。



コース・タイム
 自宅発(5:00) ⇒ ゲート前駐車場(6:00-朝食)
  ゲート(6:30) → 展望台(7:27) → 洞門岩(8:03) → ロボット観測所(8:40) → 雲竜瀑(9:20-昼食-10:40) → ロボット観測所(11:12) → 洞門岩(11:40) → 展望台(12:00) → ゲート(12:33)
 ゲート前駐車場 ⇒ 自宅

同行者
 キクさん

 宇都宮発は 5時  今日は妻は留守番,キクさんに我が家に来てもらい,私の車で2人で出かけた。 稲荷川 に沿った林道をゲートの前まで車で入ることができるが,そこの駐車スペースが少ない。 強引に路肩に置くこともできるが,最悪の場合,ずっと下に置かなければならない。そのため,5 時発ということになった。
 神橋 を渡ったところを右に曲がり, 稲荷川 に架かった橋の手前を左に入り, 稲荷川 に沿って登っていく。さっそく路面が凍結してきたが 滝尾神社 の駐車場まで進んで,そこでチェーンを付けた。チェーンは, プラスチックチェーン でスパイクが埋め込んであるものだ。値段は高かったが,凍結路面では効果を発揮して くれるはずだ。チェーンを付けているときに1台の車が上っていった。あの車もたぶん 雲竜渓谷 を目指すのだろう。
 滝尾神社 から先は傾斜もきつくなり,路面の凍結箇所も多くなった。スタッドレスタイヤだけで は登れなかったろう。チェーンを付けているときに追い抜いていった車が,駐車場の手前で止まっ ていたので,その先に出て駐車した。私たちは 3台目 だった。
 午前6時,まだ外は真っ暗。風は殆ど無いが,時々雪が舞ってくる。車の中で朝食を 食べ,支度にかかった。駐車場の路面は完全に凍結しており,歩くのさえままならない。 アイゼン をつけて歩き出すことにした。雪が降っているので,レインウエアを着て歩き出した。 気温は 氷点下4℃ を示していた。 外が明るくなるのを待って歩き始めた。 6時30分 だった。この時間で駐車場は満杯となった。1台の4駆が登ってきて,ゲートの鍵を開 けて登っていった。
 林道を少し歩くと路面は 圧雪状態 となり,アイゼンは必要なくなったが,練習の意味もあり,そのままアイゼンをつけて 歩いた。道は綴れ織りとなり,一気に高度を稼いでいく。

 徐々に雪も止み, 背後の山に陽が昇った  だが,まだここまでは日は差し込んでこない。汗をかくのがいやだから,あまりペー スを上げずに歩いたが,見た目以上に傾斜があり,暑くなってきた。レインウエアを脱ぎ,長袖の シャツで歩いたが,寒くはなかった。 


 稲荷川展望台 まで1時間かかった。眼下に大規模な 日向砂防ダム が望める。

 その先は傾斜は殆ど無く30分ほどで 「洞門岩」 という標識のある小さな広場に出る。先ほど追い越していった車がここに停まっていた。 特別に許可を得た車ならば,積雪期でもここまで入れる。

 ここから林道終点までは, 林道を進む 方法と, 河原を歩く 方法がある。林道はここから左側の斜面を高巻きにするが,除雪はここまでしかされて いない。林道には古い踏み跡があるが,新しいものはなかった。  先行者の新しい踏み跡が河原の方に進んでいたので,私たちも 河原 を歩くことにした。

 河原に降りて河原を歩いていく。雪が川の流れを覆っているので,その上を歩くこと ができる。無雪期では渡渉の繰り返しを余儀なくされるところだ。むき出しになっている流れを渡 ってから 右側の斜面を高巻き にする。その後再び河原に降りて流れを横切り,今度は 左側の斜面を登る 間もなくロボット雨量観測所のある 林道終点の広場 に出る。
 林道終点の広場 展望台 のようになっており, 雲竜渓谷 の入り口にある, 「友不知(トモシラズ)」 の氷壁が見えてくる。 時々,雲が切れて日も差してくるようになった。

 ゲート前で隣に駐車していたワゴン車から降りた 5人グループ が,ここで休憩していた。彼らが間もなく出発していったので,私達も少し間をおいて 出発した。
 雲竜渓谷の入り口にある, 最初の氷壁 は,とてもきれいなものだった。細かな流れが凍り付いたもので, 鍾乳石 のような繊細な文様が美しい。

 「友不知」 とは,両岸が切り立ち, 同行した友人を気遣うことができないほど,通過するのに命がけ になる という意味だ。廊下の右側の壁が氷壁になっており,氷壁の直下の僅かな隙間を通過す る。青みを帯びた氷がとてもきれいだ。

 更に少し行くと左側に大きな 燕岩の氷柱 が現れる。少しずつ流れ落ちる水が凍りつきながら成長していったもので, 鍾乳洞にある石柱 と同じ様な文様を刻んでいる。非常に緻密な文様で,精巧な彫刻を見るようだった。

 雲竜瀑 滝壺 へ行くには,その前にある2つの 小さな滝 (F1,F2)を登らなければならない。

 しかし,ほぼ垂直な氷壁は,とてもアイゼンだけで登れるものではない。右側に 高巻き するルートがあるので,そこを通って行くことにした。急斜面で,足場は崩れやすいが, 積雪期だけ通る ことが出来る。アイゼンを効かせて慎重に登った。
 高巻きルートの最高点まで行くと 雲竜瀑 の全容が見えてくる。滝壺まで行くと全体が写らないので,ここで写真を撮り,慎重に 滝壺まで下りた。

 滝壺は 円形劇場 のように周囲が岩で囲まれており,正面に大きな氷の塊と化した 雲竜の滝 があった。 雲竜の滝 は圧倒的な迫力で迫ってくる。しばらく言葉もなく見上げ,ややあって 「すごい」 の一言が出た。
 永遠の相棒 キクさん


 滝壺 から左に少し上がったところで休憩とし,即席麺を作って食べた。天気はだんだん良く なり, 陽射しの時間 が長くなってきた。1時間20分ほど留まり,感動を体全体に染み込ませてから,再び 高巻きルート を通って,帰途に就いた。

 往路では日陰だった 燕岩の氷柱 に陽があたり,キラキラと輝きだした。思わず足を止めて見入ってしまった。この輝き はとても写真には写らない。

 友不知 にも陽が当たってきた

 友不知 の前のキクさん。

 友不知の氷壁 を登っているグループがあった。 きれいな氷壁にためらいもなくアイスバイルを打ち込み,アイゼ ンの前爪を蹴り込んでいた  アイスバイルを打ち込むたびに 氷が割れて飛び散る  氷が砕けるためホールドが完全にとれない。そのためアイスバイルを繰り返し打ち込 む,人の頭ほどの大きさの氷の塊が落下し,足元に転がっている。側を通過する私達の頭にも, 氷のかけらが降りかかってくる  下を歩きながらとても 腹立たしくなった  氷壁を登るなとは言わないが, 氷壁を壊すのだけはやめてもらいたい。
 雲竜渓谷 を後にする頃になり,天気も回復し晴れ間がだんだんと多くなってきた。振り返ると, 雲竜渓谷の周囲の山々が,陽に当たって光り輝いていた。

 帰りは往路を逆に辿ることにした。
 復路では,登ってくるたくさんの人とすれ違った。雲龍渓谷では, 氷の弛む午後の入山は危険が増す のだが,どのくらい分かっているのだろうか。
 河原を高巻きするルートで, スノーシュー を履いた20人ほどの団体とすれ違った。 スノーシュー にもいろいろな種類があるが,全員,どこかでレンタルされたとおぼしき 平地用 の大きなものを履いていた。はっきり言って,このコースを歩くために スノーシュー を選択したのは間違いである。このコースではもともと雪は深くはないし,河原歩きで は 傾斜 もあるし 渡渉 もある。こんなコースではスノーシューは必要ないばかりでなく, 渡渉の場面では危険でもある  団体のリーダーの見識を疑う。
 駐車場まで戻ってきた。


 今日は,天気は徐々に回復し,すばらしい氷の芸術を鑑賞できて大満足だった。

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