白 馬 岳

期日 2006年(平成18年) 8月2日(水)〜3日(木)
 


コース・タイム
 8月1日(火)
  宇都宮(20:00) ⇒ 猿倉(P)(0:40)  
 8月2日(水)
   猿倉(P)(5:24) → 猿倉荘(5:40) → 白馬尻小屋(6:50-7:00) → 雪渓入り口(7:30) → 葱平(10:15-30) →
                                                        → 小雪渓(12:00) → 頂上宿舎(14:15)
 8月3日(木)
   テント場発(6:00) → 白馬山荘(6:30) → 白馬岳山頂(7:00-30) → 小蓮華山(9:00-15) → 白馬大池(10:40-11:00) →
                                                      → 乗鞍岳(11:40-45) → 栂池山荘(13:50)
   栂池山荘⇒(ロープウエイ)⇒栂池高原⇒(タクシー)⇒猿倉   猿倉⇒道の駅美麻(入浴・仮眠)
 8月4日(金)
   道の駅美麻(2:00) ⇒ 宇都宮(5:20)

同行者
    単独

 今年は梅雨明けが遅く,例年より10日ほど遅れた。例年7月最終週に大きな山を登ることにしている。昨年は鹿島槍に登り,一昨年は燕岳から常念に縦走した。今年は甲斐駒ヶ岳,仙丈ヶ岳を計画していたのだが,天候が悪く中止にした。
 7月30日に梅雨明けも発表され,いよいよ夏山シーズンの幕開けだ。そこで,以前から憧れていた
白馬岳に登ることにした。テントを担ぎ,できれば,不帰ノ嶮を通り唐松まで縦走する計画だ。毎年一緒に行っている妻のチコは,体調が十分でないことと,他に用事があり,一緒には行けなかった。ということで,単独テント泊縦走と言うことになった。
 できるだけ早く歩き出したいと言うことで,前夜に
猿倉の駐車場まで入り,仮眠してから出発することにした。宇都宮の自宅を20時に出発し,上信越道を通って長野ICからオリンピック道路を通り,猿倉に着いたのは0時40分だった。平日なのに,その時間で既に駐車場は半分以上埋まっていた。上空は澄み渡り,満天の星が手が届きそうなほど近くに見えた。

 4時起床。白馬岳の頂上には薄く雲が懸かっていた。湯を沸かし卵スープを作り,昨夜コンビニで買ってきたおむすびを1個食べて朝食とした。

 身支度をして駐車場を後にしたのは5時25分。猿倉荘でトイレを済ませ,登山計画書を提出して小屋の脇から山道に入った。少し歩くと林道に出る。後しばらくはこの林道を歩く。背中の荷物は約18kg。軽量化に努力したのだが,結局この重さになってしまった。


 林道を少し歩くと,前方の遙か高いところに白馬岳が姿を現す。今日はあそこまで登る。

 林道から山道になり,長走沢(ナガシリサワ)に掛けられた橋を渡る。
 白馬尻荘の前には大きなスノーブリッジができていた。

 白馬尻小屋では,「おつかれさん!ようこそ大雪渓へ」と彫られた大きな石が出迎えてくれる。

 今年は雪が多く,大雪渓は,この小屋の少し下まで伸びている。

 白馬尻小屋から山道を少し登り,そこからいよいよ雪渓歩きが始まる。今回は6本爪の軽アイゼンを持ってきた。4本爪ではあまりにも頼りない気がしていたが,これは正解だった。
 雪渓の歩き始め。先行者が列を作っている。



 雪渓の上では左右の崖から落ちてきた石が,そのまま下方に転がっていくことがあり,危険だ。そこで,雪渓上には,比較的安全なルートが赤いベンガラで示してある。
 
初めのうちは傾斜も緩く,スプーンカットをうまく使えば,アイゼン無しでも問題なく歩けそうだ。登山者は多いが,自分のペースで歩けないほどに混雑はしていない。自分のペースを作り,ゆっくりと歩く。少しずつ進んでいることは確実なのだが,目に映る景色の変化が少なく,登っている実感がない。
  ガスに包まれると急に寒くなる。手がかじかんでしまい,手袋をはめた。


 昭文社の地図に依れば,白馬尻から葱平までの標準タイムが1時間50分となっていたが,結局3時間15分かかった。でも,この程度の時間はあらかじめ想定していたので問題ではなかった。
 葱平はもっと平坦なところと思っていた。 振り返ると,白馬側の崖から崩れた岩犀が雪渓の上に土手を作っていた。



 葱平からの登りは傾斜も急になり,奥穂のザイテングラードを思わせた。この,段差のある登りで,左足の腿が痙攣を起こしそうになった。そこで,休みをとりながらマッサージを繰り返し,面倒を見ながら歩いた。皮肉なことに,足元には珍しい高山植物がたくさん見られたが,歩きながら写真を撮る余裕はなかった。
 
小雪渓は,斜めにトラバースしながら登る。トレースがしっかりと刻まれ,アイゼン無しでも問題はなかったが,私は安全のためにアイゼンを着けて歩いた。

 小雪渓を過ぎるとやっと傾斜も緩くなり,左右は高山植物が咲き乱れるお花畑になっていた。足を休ませることを言い訳にして休憩を多く取り,そのたびに写真を撮った。
 
 ハクサンイチゲ    

  シナノキンバイ


  イワオウギ      

  ハクサンフウロ


  ヨツバシオガマ    
    テガタチドリ

 ハクサンフウロの群落

  タンポポ
 白馬岳には希少種の「シロウマタンポポ」があるが,このタンポポがシロウマタンポポであるかどうかは分からない


  ミヤマオダマキ
 急傾斜の階段道を登っていく。

 オタカラコウ


                                           村営頂上宿舎


  ウルップソウ


  ウルップソウハクサンイチゲ


 ハクサンイチゲの大群落
 葱平から4時間弱かかって頂上宿舎に着いた。苦しい登りだったが,何とか最悪の事態は避けることができて,ホッとした。


 重い荷物を背負ったまま階段を上り,小屋の受付に行って,テントの申し込みをしようとすると,「下の売店で」という。再び階段を下り,売店の受付に行くと,今度は「テントサイトで」という。直ぐにでもザックを放り出して休みたいのに,なんとも残酷な仕打ちだった。宿舎の建物の右側を廻って裏に行くと,窪地になっており,そこがテントサイトだった。左手前の水色のテントが私のテント


 早速受付をして,テントを設営した。予定では,テント設営後に白馬岳の山頂を往復することになっていたのだが,もうその気力は無かった。


 テントの中で一休みし,夕刻,日没を見に外に出た。
  山頂近くにある白馬山荘には,何時までも陽が当たっていた。山荘のテラスには,日没を見ようとたくさんの宿泊客が集まっているのが見えた


  手前の丸山は日がかげったが,杓子岳の大きな斜面には,まだ陽が当たって輝いていた。登山道がはっきりと見える。


  稜線から見下ろしたテントサイト。 一段と高いところにある水色のテントが私のテント。風当たりは強そうな場所だが,今晩は強い風は吹かないだろうと判断してここにテントを張った。

 テントを張って一休みし,持ってきたパンを食べようとした。一口ちぎって口の中に入れ,噛んだところ「ガリッ」と異様な歯ごたえ,パンの中に石でも混じっていたかと思って取り出したところ,奥歯に詰めていた金属だった。「弱り目にたたり目」である。
 明日以降の予定をどうしようか考えた。
 今日は,とても苦しかったし,疲れた。足の痙攣も,筋肉が限界に近づいている証拠だ。正直,
明日以降予定通りのコースをクリアする自信は無くなった
 まず,
白馬三山をクリアし,鑓温泉に一泊し,翌日下山する案。次に,白馬大池に廻り,栂池に下山する案。この案ならば,明日中に下山できる。
 
天狗山荘に一泊して翌日唐松岳に向かう案も考えた,調子が良ければ唐松岳からその日の内に下山できるが,唐松岳頂上山荘で一泊することも可能だ。この案ならば,白馬岳の山頂をピストンしてから杓子に向かうことができる。このときはこの案に固まって眠りについた。 満天の星は,一晩中輝き続けていた。

 外が騒がしいので目が覚めると,午前0時だった。あの騒ぎは何だったのだろう。午前3時を過ぎると,起きだして出発の準備を始めるテントが現れた。でも,外はまだ暗い。4時半頃になると外が明るくなり始めたので起きだし,テント内を片付けはじめた。温かな物が食べたかったので即席麺を作った食べた。疲れが残っているためか,動作が緩慢で,てきぱきとした動きができない。そのため,意外と時間がかかった。作業を中断し稜線まで行けば夜明けの山々が見えるのだが,時間がもったいなく,その気にならない。
 携帯電話が繋がるかどうかテストしようと電源を入れたが,電源のON,OFF以外は,一切のキー操作ができない。壊れてしまった。 ハプニングは他にもあった。写真を撮ろうとしてカメラの残りコマ数を見ると””を示している。このカメラには128MBのメモリーカードが入れてあり,いつもの設定ならば約400コマ撮影できる。出発直前にカードをフォーマットしたのだから,そんなはずはないと思い調べてみると,設定がいつもと違っていた。いつもは,画像サイズを1280×960 にしておくのだが,1600×1200 になっていた。これでは約100コマしか撮影できない。設定をいつもの状態に戻し,昨日撮影したものから,要らないものを削除し,約30コマのスペースを作った。これで今日一日何とかしよう。
 荷物を稜線まで担ぎ上げ,そこに荷物をデポし,軽装で山頂を往復するつもりだった。ところが,いざ荷物を担いでみると,異様に重く感じ,稜線までの僅かな登りがスムーズに登れない。歩き始めが苦しいのはいつものことだが,
今日予定したコースを歩く自信が無くなってしまった。 一度,気が萎えてしまうと,再び奮い立たせるのは難しい。ここで,急遽,白馬大池廻り栂池下山にコースを変更してしまった。
 稜線へ出ると,劔岳から別山,立山が手の届くような近くに見える。

     劔岳 



  チシマキキョウ


 山頂までのほぼ中間にある白馬山荘で休憩した。すると,目の前に公衆電話の看板がある。早速自宅に電話し,携帯電話が壊れたこと,コースを白馬大池から栂池方向に変更して,今日中に下山することを伝えた。

  白馬岳 頂上はもう少しだ。 朝日なのに,容赦なくジリジリと煎るように照りつけてくる。 今日も一日暑さとの戦いだ。 


   白馬岳山頂で


 山頂からの眺めは素晴らしかった。まさに360度の大展望だ。
 まず,ピラミダルな
剣岳が目に飛び込んでくる。そこから,左に,剣御前,別山,真砂岳,御山(立山)。その後ろには遙かに薬師岳が見え,その左には独立した黒部五郎岳がそびえている。スカイラインを左に辿っていくと,一際尖って天を指している槍ヶ岳にぶつかり,更に奥穂高岳,前穂高岳と連なる。
 足元には白馬山荘の建物が見え,そのまま登山道を辿ると,丸山を越えて
杓子岳,鑓ヶ岳と繋がっている。鑓ヶ岳の後ろには,五竜岳,鹿島槍ヶ岳が重なり,その奥には,遙か常念岳まで見える
   白馬岳山頂からのパノラマ (写真をクリックすると大きな写真が見られます。)


 山頂から見下ろした白馬大雪渓。

 足元には白馬大雪渓が見下ろせ,遙か彼方の,猿倉の駐車場まで見える。昨日はあそこから歩いてきたのだと思うと,信じられない気がした。
 既に雪渓には一列になって登ってくる
登山者の行列が見えた。昨日の今頃は,私はまだ雪渓までたどり着いていなかった。
 北東に目をやると,妙高・火打の連山が雲海の上に顔を出していた。  左から 焼山,火打山,妙高山


 小蓮華山 白馬岳から小蓮華山に繋がる稜線は,「天上の散歩コース」


 新田次郎の小説「強力伝」は,この方位盤を担ぎ上げる物語だ。


 クモマミミナグサ



   タカネシオガマ



  覆っていた雪が解け出し水面が見えてきた長池 

  稜線が2本になる複山稜がはっきりと分かる。

白馬岳と杓子岳

                                                小蓮華山の山頂


 遠くに鹿島槍ヶ岳の双耳峰

 小蓮華山の山頂で栃木女子高の生徒達と出会った。


 彼女たちは,前夜は白馬大池に幕営し,今日は白馬山頂宿舎のテントサイトに向かうという。細い体に20kg超のザックを担いでいる。私などは18kgでヒーヒー言っている。若さは素晴らしい。最近,山で若い人を見ることが少なくなっており,彼女たちの若さが眩しかった。栃木女子高山岳部のみなさんのご了解が得られましたので,写真を載せます。

 小蓮華山から白馬大池までは,展望の開けたなだらかな尾根道で,素晴らしい景色を眺めながら楽しく歩くことができた。
ところが,小蓮華山頂からの下りの斜面で,
右足首に痛みが出てきた。昨日痙攣が起き始めた左足をかばい,どうしても右足に負担が集中してしまったためのようだ。足を真っ直ぐに着く限りは痛みはないのだが,足首を内側にねじると痛みを感じる。なんとか栂池までは歩ききりたいので,なお一層慎重にスローペースで歩いた。景色は素晴らしく,高山植物も咲き乱れているのだが,それを愛でる心の余裕は無くなってきた。デジカメのメモリーも底をついた。
 ミヤマアズマギク

 白馬大池は,想像以上に大きく,小屋の前にはハクサンコザクラが咲いていた。
大池山荘の前で昼食を食べ,水を補給した。 この山行では,水を大量に消費した。持参した水は,1リットルの水筒と,500ccのペットボトル1本。昨日は1.5リットルの水を持って猿倉を出発。途中で1リットルを飲み尽くし,途中で沢水を1リットル補給した。

今日は,同じく1.5リットルの水を持って出発し,白馬大池までで,ほぼ飲み尽くした。ここで満タンにした水筒も,栂池までで1リットル程度飲んだ。この二日間は,陽射しが強く,汗もたくさんかいた。そこで,熱射病予防の意味もあり,積極的に水を飲んだ。

 白馬大池を回り込み,大きな石のごろごろしている斜面を登り,大きなケルンのある乗鞍岳山頂に着いた。山頂は大きな平坦地で,最高点がどこにあるのかはわかりにくい。
 山頂の平坦地を通り抜けると
雪渓の下りになる。まず,雪渓をトラバースし,雪渓の縁に沿って下っていく。例年ならば,この雪渓はもっと小さいのだそうだが,今年はまだ大きく,夏道を覆っていた。傾斜もきつく,安全のためにロープが設置されているのだが,軽アイゼンなどの滑り止めがないと下るのは難しい。正午を過ぎたのだが,かなりの数の登山者が登っていく。

 
栂池山荘で汗を拭き,シャツを着替えた。ここからは山の領分ではなく,一般観光地だ,汗くさいシャツでロープウエイに乗るのは気が引けたからだ。
 ロープウエイ,ゴンドラリフトを乗り継ぎ,終点の
栂池高原駅まで行った,公衆電話で自宅に連絡をしてから,タクシーに乗り,猿倉の駐車場に向かった。タクシーの料金は一律で5050円。メーターだと6000円くらいになると運転手が言っていた。

 猿倉の駐車場は,ほぼ満杯状態だった。白馬でなじみのペンション「
林檎の樹」に寄ってオーナーの顔を見てから,オリンピック道路に入り,「道の駅美麻」に向かった。この道の駅には温泉があるので,ここで温泉に入り,仮眠してから自宅に向かうことにした。
 山から下り,温泉に入ってからビールを飲めるというのは,最高の贅沢だ。・・・・・・・・癖になりそう。
 午前2時に道の駅を出発し,長野ICから上信越道路を通り,北関東道路伊勢崎ICで出てから佐野藤岡ICで東北道に入った。北関東道壬生ICで出ると,自宅は近い。3時間強で自宅に着いた。

 この山行は,素晴らしい天気に恵まれ,天上の楽園に遊ぶことができ,大きな感激だった。一方,単独テント山行の厳しさや,ハプニング時の対応の仕方など,貴重な経験もすることができ,実り多い山行だった。

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