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ハクサンチドリ (ラン科)

 30歳の頃だった。私は,1歳年長の友人と二人で奥日光の 切込湖・刈込湖 ハイキングコースを歩いていた。山王峠から切込湖の方に急斜面を下ったところに, 涸沼 という乾燥湿原がある。雪解けの時期だけは水がたまるが,普段は乾燥した草原で,多く の植物が見られるところである。そこで私は,薄紫の花を付けた小さな植物を見つけた。花の形とい い,その色合いといい,なんとも可愛く,私の心を惹きつけた。それが ハクサンチドリ だった。一緒に歩いた友人は,当然,その名前は知っており,そのほかにも色々な植物の 名前を教えてくれた。
 私は,学生時代から山歩きが好きで, 日光 尾瀬 などを歩き回っていた。 山岳部 ワンゲル 等には属さず,気のあった仲間と気ままな山歩きを楽しんでいた。 高山植物 などに興味がなかったわけではないが,もっぱら 歩くこと自体 を楽しんでいた。大きな荷物を担ぎ,前を歩く人の靴の踵だけを見つめて,ただひたすら 歩いていた。せっかく尾瀬を訪れても,どんな花が咲いていたのかあまり記憶にない。
 ところが,この時の山歩きは,実にのんびりと,時間をたっぷりかけ,まさに ぶらり,ぶらり の山歩きだった。歩きながら,周囲を見渡したり,写真を撮ったり,それまでの山歩きの イメージを一新させたハイキングだった。



 ハクサンチドリ 白山 で発見されたことから ハクサン ,花が 千鳥 の姿に似ていることから チドリ ,合わせて ハクサンチドリ という名が付けられたと友人に教えられた。この花はの名は,しっかりと脳裏に焼き付け られ,もう忘れることはなくなった。このようにして私は,高山植物への興味を持ち始め,花の名前 を覚えはじめたのである。
 ハクサンチドリ は,私に高山植物への興味を抱かせたきっかけになった花だ。