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クルマユリ (ユリ科)

 クルマユリ は,亜高山帯に咲くユリで,茎の中段に葉が 車状 につくことでこの名前がある。花弁に光沢があるのも特徴だ。

 長野県の 小諸 から 鹿沢 に抜ける 地蔵峠道 の途中に 奈良原 という集落がある。子どもが小学校の低学年だった頃の夏休み,そこにあった友人の別荘 を借りて1週間位ずつ滞在した。
奈良原 から 地蔵峠 までは車で直ぐに着けた。地蔵峠から 高峰林道 を高峰に向けて少し走ると, 池ノ平 の駐車場に着く。ここから, 池ノ平湿原 はすぐだ。まだ,その頃は訪れる人も少なく,豊富な高山植物をゆっくり観察できた。こ こで名前を覚えた花もたくさんある。 クルマユリ に出会ったのもここだった。
 池ノ平を横切り,対岸の斜面を少し登ると 三方が峰 に着く。その,樹林帯の道の脇に クルマユリ が咲いていた。30cmにも満たない小さな体で,僅かな木漏れ日を精一杯に受けとめよ うと,背伸びするように咲いていた。花はたったの1輪,しかし,茎の下の方には, 輪生した葉 が, クルマユリ であることをしっかりと主張していた。

 那須の沼原湿原 でも,クルマユリとの出会いの記憶がある。 1982.08.06

 駐車場から 沼原湿原 に行くと,まず,湿原を 周回 している道に出る。そこを右に折れ,数十メートルも行くと,休憩所の 四阿 がある。この四阿の前には ポンプ井戸 があり,夏にはその冷たい水で顔を洗った。更に数十メートル進むと,道が二俣に分かれ る。右へ行くと 姥が平 を経て 茶臼岳 方面へ,左に行くと,坂を下り, 三斗小屋宿跡 を通って 三斗小屋温泉 方面へ行く。
 この分かれ道の正面に大きなクルマユリがあった。 それは,とても見事なもので,10個以上もの花が何段にも咲き,最も下の輪生葉は小さ なテーブルほどもあった。この株は,毎年確実に大きくたくましく成長しており,毎年,この花に会 うのを楽しみにの一つにして沼原に出かけた。
 ところがある年,いつも咲いていたところに,その花の姿は無かった。代わって,大き な穴が黒い底を見せていた。私は言葉を失った。