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早稲沢(ワセッサワ)

 かつて(30年ほど前) 早稲沢 を上りつめた峠から, 小淵沢 (ニゴリ沢)の林道まで荷物運搬用の 索道 (ロープウエイ)がかけられていた。当時, 長蔵小屋 の荷物は, 大清水 から 中俣沢林道 を登り, 小淵沢林道 の途中まで車で上げ,そこから 早稲沢の峠 まで索道で上げていた。早稲沢の峠からは,キャタピラの付いた特殊な車で長蔵小屋まで 運んでいた。
 昭和40年10月,私は, 奥鬼怒の日光沢温泉 を朝に立って, 鬼怒沼 から 中俣沢 を下り 小淵沢の合流点 から 小淵沢 を登って 小淵沢の田代 から 長蔵小屋 に行くつもりで歩いていた。このコースは 前年の6月 逆コース で歩いていたが, 檜高山 を半周するようなコースで,なんとか 近道 はできないものかと考えていた。小淵沢の途中から直接に尾瀬沼に出られれば,かなりの 近道となる。地形図で調べたが,岩場や崖は無いようである。行って行けないコースではない。考え ながら歩いていると, 索道 が目に入った。この索道の話は以前に聞いていたので,この索道に沿って登ることにした。
 歩き始めだけは,索道の点検用に歩いたと思われる踏み跡が付いていたが,少し進むと 全く何もなくなった。 クマザサ が背丈以上にも高く生い茂り,視界は全く効かない。時々,倒木の上に乗って進行方向を 確かめた。 頭上を通っているはずの索道 も,背の高い樹林に隠され,見失いがちになる。索道に沿って登るので,急な斜面を一直 線に登ることになり,傾斜もかなり急になる。少し進んだところで, 無謀だったかな と後悔したが,一方で,このくらいなら何とかなるという自信みたいなものも湧いてきた。 結局,40分ほどの藪こぎで峠の 索道終点 に出られた。ここからは早稲沢に沿った広い道で,突然に 尾瀬沼畔の登山道 に飛び出した。自分としては,自分の体力や技術などを基にして判断したことで,間違っ てはいなかったと思っていたが,今考えると,やはり無謀だったのかもしれない。いろいろな意味で 良い思い出に残っている。
 最近,大清水から尾瀬沼に登る機会が増えたので,尾瀬沼畔を歩くたびに 早稲沢沿いの道の痕跡 を探しているのだが,既に形が崩れてしまったのか,背に高い草に草に覆われ,見えなく なってしまったのか,まだ,旧道を確認することはできない。

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